誰にとっての「正しい戦争」なのか

「僕たちの戦争」(TBS 系 9月17日21:00〜)

最後に「正しい戦争なんて、どこにもありません」というメッセージが出るが、ドラマの中ではこういう政治的メッセージは特に強調されてない。セリフに一度だけあったくらいか。たぶん TBS 上層部の指示で入れさせられたんだろう。と思っていたら、原作の荻原浩『僕たちの戦争』(双葉社、2004年、双葉文庫)を立ち読みしたら、原作にもこれと同様のセリフが一度だけ出てきた。TBS の公式サイトのインタビューで八木康夫プロデューサーは

正しいとか正しくない戦争というのはなくて、100%戦争は正しくないと思うんです。どんな大義名分があっても、必ず犠牲者がいるんです。

と言う。確かにそうなんだけど、あらゆる戦争は「正しくない」と言ってしまうと、じゃあアメリカ・イギリスによるイラク侵略に抵抗したイラクの人々の戦いも「正しくない」のだろうか。

戦争というのは普通、国家間の外交交渉が決裂した際にやむを得ず行うものである。時にはイラク戦争のように自国の権益を拡大するために他国を侵略する場合もあるが、先の大戦、当時の日本における呼び名でいうと「大東亜戦争」は、外交交渉での要求が日本にとってどうしても受け入れがたい段階まで来たのでやむを得ず開戦に至った、と僕は解釈している。開戦を決めたのは政府だから国民一人一人には無関係と思われがちだが、国民の日常生活が脅かされる恐れがある程の要求だったと考えるなら無関係ではない。実際そうだったと言われている。それなら政府から招集されれば戦わざるを得ないだろう。それは「正しくない」のだろうか。「正しい」という言葉をどういう意味に取るかによって考え方が違ってくるかもしれないが。

例えばエルサレムという土地を巡ってユダヤ人=ユダヤ教徒とキリスト教徒とイスラム教徒が争ってきた。いずれの宗教においても「聖地」だからそれぞれが、自らが支配する正当性を主張している。第三者からすればどの立場から見ても「正しい戦争」である。これは自分の住む国家から要請されるものでなく一人一人の帰属する宗教に関わってくるので、より戦争を自分自身のためのものととらえられるだろう。イスラエル軍による空爆やレバノン侵攻やイスラム教徒による自爆テロという戦略が妥当かどうかはまた別の問題である。

原作にある「正しい戦争なんて、どこにもない」という尾島健太のセリフには、特に政治的意図は込められてないと思う。実際に人間魚雷で出撃したんだし、自分が行かないとかつての恋人の祖父が行ってしまう、そうなると恋人が生まれて来なくなってしまう、という個人的な理由ではあるが、結果として潜水艦を守るための出撃となった。昭和20年 8月15日の玉音放送を聴いた翌日の出撃という特殊な設定を見ても、戦争そのものを否定しているわけではないと思う。「正しい戦争なんて、どこにもありません」というメッセージを強調するとその言葉がひとり歩きして、原作の小説の内容もドラマの内容も誤解されてしまう。ましてやこういう特殊な状況の中で発せられたセリフで、あらゆる戦争について判断するのは不適切である。結局八木康夫プロデューサーはこのドラマを政治的メッセージを伝える道具として利用したかったんだろう。つまり僕は、原作の荻原浩の小説の内容は尊重する。立ち読みで終盤を斜め読みしただけだが。脚本山元清多、演出金子文紀のドラマの内容も尊重する。でもプロデューサーの八木康夫の意図には同意しかねる。

ドラマには出撃する理由について、お国のためになんかじゃない、とかいうセリフもあったが、現代の日本を生きる人間がいきなり「お国のために」特攻しようなんて考えるのはなかなか無理だろう。たとえ万が一これから日本が戦争に突入したとしても。それに既に敗戦を知らされていたので、「お国のために」ではなく純粋に自分達の乗る潜水艦を守るための出撃である。

個人的には上野樹里の携帯電話の着メロが aiko の「キラキラ」だったのがちょっとうれしかった。僕と同じ事考えた人がいるのかな。それから初めの部分、空襲警報が鳴って避難する途中で家に引き返した時の内山理名のセリフは「兵隊さんには鼓舞していただかないと」でいいのかな。そこで森山未來が拳(こぶし)を握って口の中に入れようとする。

TBS はどうもこのドラマだけでは不満のようで、昨年の「広島・昭和20年8月6日」を今日再放送する。これについては昨年書いた。

2005/08/30 「過ち」は戦争ではなく原爆投下

ただこの中で、「僕は絶対に死にません、必ず生きて帰って来ます」というセリフに対する僕の考えは少し変わった。出征する兵士は建前としてはこんな事を言わなかったと思うが、自分を待つ恋人になら言ったかもしれない。これは戦前・戦中も戦後も変わってないと思う。

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